一部の識者の間で知られている「タナボタ企画」誕生のあらましは、今から三年前の秋、林アキラが行ったヤマハのエレクトーン・コンサートの第二部で、彼が創作ミュージカルをやりたいと叫んだことに端を発している。
林アキラは知り合いの劇作家の何人かに声を掛けたが相手にされず、仕方なく、気の弱い忠の仁を脅せばどうにかなると思い立ち、さっそく忠の仁に三つの要求を叩き付けた。『どうしてもジュリエットを演りたい!』『格好いいロミオとヤリたい!』『自分の作った曲を好きに歌わせろ!』
もちろん忠の仁は「いいひと」だったので、必死になって林アキラの望むミュージカルの台本を書こうと努めた。彼は文献を読み漁り、自費でイタリアのヴェローナまで足を運び、まったく新しい真実のジュリエット像を二十世紀に甦らせたのだ。そして相手役には嫌がる岡幸二郎を無理矢理説き伏せもした。林アキラにとってはまさに「タナからボタもち状態」だった。以上である。
だが、まことしやかにささやかれていたこの噂話には、いくつかのウソが隠されている。実は「正しいひと」忠の仁の台本に林アキラが不満を抱いたのである。当然の結果なのだが、彼の本は健全で品がよく、しかも真面目な作品だったのだ。林アキラは耐え難かったのだろう。内定していたロミオ役の有名な二枚目俳優を断わってまで、別の役者を引っぱってきた。それが当時「たなぼっち」と呼ばれ怖がられていた妖怪・岡幸二郎である。彼は忠の仁の台本をほとんど原形をとどめないほどに書き改め、あの伝説の「真説 ロミオとジュリエット」をでっちあげたのだ。林アキラの陰謀は成就した。そして、忠の仁は「いいひと」だったので、不満も言わず、彼ら二人組みの思うがままに操られてしまったらしい。
これが今まで誰にも明かされなかった真実の物語である。もし妖怪の正体を知りたければ、例のタナボタ企画のマークを上下逆さにしてみればいい。三本足の「たなぼっち」岡幸二郎の姿が浮かび上がる筈である。そして多分、この妖怪どもは知らぬ間に日本のミュージカル・シーンに忍び込んで行くに違いない…。
タナボタ企画
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